一時期「水を2回沸騰させると酸素の構造が変化 ヒ素や硝酸塩、フッ化物などが生じる」可能性があるという記事が話題になりましたが、水を沸騰させると溶けている酸素は抜けてしまいますが、酸素の構造は変化しませんし、ヒ素、硝酸塩、フッ化物などが生じることもありません。
水は何度沸騰させても、水のまま。水からは何も生じません。
でも、水道水となると話は別です。
水道水は純粋な水(H2O)ではなく、様々な物質が溶け込んでいます。
沸騰させることで水の中に溶け込んでいる物質同士が反応して、別の化学物質が生じる可能性はあります。
その一つがトリハロメタン。
発癌性や催奇形性が疑われている物質で、水道水の中にも微量ですが含まれています。
トリハロメタンとは、メタンを構成する4つの水素原子のうち3つがハロゲンに置換した化合物の総称で、以下の物質を指します。
- フルオロホルム
- クロロジフルオロメタン
- クロロホルム
- ブロモジクロロメタン
- ジブロモクロロメタン
- ブロモホルム
- ヨードホルム
そのうち水道水に含まれる恐れがあるものについては、以下のような基準が定められています。
- クロロホルム- 0.06 mg/L
- ブロモジクロロメタン- 0.03 mg/L
- ジブロモクロロメタン - 0.1 mg/L
- ブロモホルム- 0.09 mg/L
- 総トリハロメタン - 0.1 mg/L
WHOの基準では、「クロロホルム - 0.2 mg/L」とされていて、日本の基準はかなり厳しいものになっています。
蛇口をひねった時に出て来る水道水の中には、上の基準を下回るトリハロメタンが含まれている訳ですが、そのトリハロメタンは
フミン質+塩素
が反応して発生します。
フミン質とは、植物などが微生物に分解されてできる腐植物質です。そして、塩素は浄水場で消毒剤として添加される物質。その2つは反応して、トリハロメタンが発生してしまいます。
ですが、水道水として供給される水には、安全なレベルにまで制限がされているため、トリハロメタンに対して神経質になる必要はありません。
ですが、
フミン質+塩素=トリハロメタン
という化学反応は温度が上ると促進されるため、水道水を調理などで沸騰させると濃度が上がってしまうため厄介です。
沸騰で濃度が上昇するトリハロメタン
ヤカンや鍋で水道水を加熱すると、
フミン質+塩素=トリハロメタン
の化学反応が促進され、水に含まれるトリハロメタンの濃度が上昇します。
そのために、一定時間沸騰を続けて、水の中のトリハロメタンを揮発させる必要があります。一般的には「5分」といわれていますが、水の中のフミン質と塩素の量によって時間は異なります。完全にトリハロメタンを除去したい場合は、かなり長い時間沸騰を続ける必要があり、余り実用的ではないかも。
<トリハロメタンを除去する方法>
5.知っておくと便利な水道まめ知識
トリハロメタンを除去する方法として、 ご家庭で簡単にできる方法をご紹介します。 トリハロメタンは、 水道水中に存在する有機物と塩素剤が反応してできる物質で、 発がん性が疑われるもので、水質基準に定められている物質です。 水質基準は、 生涯にわたって連続的に摂取しても人の健康に影響が生じないレベル を基に安全性を考慮して決められています。 浄水場では、水質基準を超えないように対策がとられているため、 水道水中に含まれるトリハロメタンを摂取したとしても健康上問題はありません。
1.沸とうさせる
沸とうさせると、トリハロメタンは気化して水中から除去することができます。このときに10分以上沸とうを続けてください。トリハロメタンは、沸とうして5分程すると一時的に水中濃度上昇しますが、さらに沸とうを続けると蒸発するため、除去することが可能です。5分程度で沸とうを止めてしまうと、逆にトリハロメタンが増加してしまうので注意が必要です。電気ポットでは、沸とう操作を数回繰り返すことで除去することができます。
2.活性炭にとおす
活性炭の表面には目では見えない小さいすき間が空いていて、そのすき間に色々なものを取り込む性質があります。残留塩素と同様にトリハロメタンも活性炭に吸着されるため、除去することができます。ただし、活性炭の吸着量には限度があるため、市販の浄水器等で活性炭吸着装置のついたものをご使用になる場合は、適正な交換時期を守って使用して下さい。
出典:三重県 5.知っておくと便利な水道まめ知識(解説編)
長い時間沸騰させなくても、市販の浄水器を通すだけで、フィルターによってトリハロメタンも塩素も吸着・除去されます。
簡単で省エネな方法ですが、メーカーの使用上の注意に従わない場合、一度吸着したトリハロメタンが流れ出てしまい、却ってトリハロメタンの濃度が上がってしまう場合がありますので、注意が必要です。
活性炭を使用した浄水器についての注意点
活性炭は、水中の残留塩素やトリハロメタンなどを除去する性質から、 家庭用の浄水器に多く使用されています。 使用の際は、機器の取扱説明書にある注意書きをよく読んでください。
活性炭は、上にも示しましたとおり、残留塩素を除去する性質があります。 よって、活性炭を通して出てきた水には、消毒用の残留塩素が存在しません。 ですから、 活性炭を通して得られた水はなるべく早く使用していただくことをお薦めします。 また、活性炭はトリハロメタンを除去しますが、吸着量には限界がありますので、 適正な交換時期を守って使用されない場合、 一度吸着したトリハロメタンが流れ出て、 通常よりも高い濃度の水となるおそれがあります。 このような注意点に気をつけてお使いください。
出典:三重県 5.知っておくと便利な水道まめ知識(解説編)
完全に除去するには10分以上の沸騰が必要でも、加熱前の水道水に含まれるトリハロメタンの10%の水準まで減少させるには4分間の沸騰で実現できるようです。
5.煮沸によるTHMの消失時間
水道水のTHMは,煮沸を続けることによって最終的には消失する(図1および図2)。東京水道水試料では,煮沸後2分で未加熱水道水中の全THM濃度の0~33(平均14%),4分で0~10%(平均2%),6分で0~2%(平均0%)となり,4分でほぼ消失した。
津山水道水試料では2分で未加熱水道水中の全THM濃度の7~110%(平均38%),4分間で0~31%(平均9%),6分間で0~13%(平均4%),8分で0~6%(平均1%)となり,6分でほぼ消失した。
未加熱水道水の全THM濃度の10%を切る水準になるのに時間がかかったのは津山2月と津山11月および東京3月で,4分間の煮沸が必要とされ,冬期の水道水に時間がかかる傾向があった。
梶野7)の冬季(1月)の水道水煮沸実験では,未加熱水道水の全THM濃度の10%になるのに30分以上かかっているが,また吹田市の市民グループの結果は,夏期8月の水道水で5分程度,冬期12月で10分程度となっている。これらに比べ,今回の結果は,短時間の煮沸で十分に全THM濃度が減少することを示した。
ま と め
東京,津山の両水道とも冬季を中心に全THM濃度は80℃~100℃に加熱したときに全THM濃度が未加熱水道水よりも高くなった。
加熱煮沸実験による全THM濃度の変化パターンは,THMの揮発除去速度,THM生成速度,水道水の有機物のTHM生成能力および有機物量,の4つの要素から説明された。
加熱によるTHMの成分組成比の変化から,季節的に(水道の蛇口水温の違い),やかんの中でのTHM生成速度に強弱があることが推定された。そして夏季にはTHMの生成がTHM揮発除去速度に比べ劣勢になり,冬季は優勢になることが推定された。
煮沸により未加熱水道水の全THM濃度の10%の水準にまで減少させるための所要時間は,最大で4分であった。この結果は,従来の報告よりも短い。
出典:美作大学 「水道水中のトリハロメタンの煮沸除去に関する研究」
※THM:トリハロメタン
あるサイトに引用されている大阪市水道局が行ったとされる実験結果では、トリハロメタンをゼロにするには50分間の沸騰が必要で、10分間の沸騰ではトリハロメタンは加熱前の水道水よりも高レベルであるとしています。
浄水場の煮沸テスト/大阪水道局
大阪市水道局の浄水場の煮沸テストによれば、トリハロメタンは、煮沸すると最初の3~4倍に増加し、10分以上煮沸することで少しずつ減少し、50分でゼロになります。
つまり、トリハロメタンの危険性から回避するには50分煮沸を続ける必要があるのです。しかし50分も煮沸を続けることは非現実的で、一般的には煮沸した瞬間に火を止める方が多いはずです。ここで知ってほしいのは、水道水は煮沸するだけでは安全とは言えないという事です。
そこで、水道水を煮沸する前に、塩素をはじめ水道水に含まれる全ての有害物質を取り除く必要があります。そのために家庭で出来る一番確かな方法として浄水器でろ過する以外安全な方法は今のところないと思われます。
出典:PurEau 「知られていない発がん性物質トリハロメタンの恐怖」
出典が不明ですし、昭和55年(1980年!)の実験結果ですので、信憑性は低めかも知れません。
ただ、当時の水道水に今よりも多くのフミン質と塩素が含まれていた可能性がありますので、今とは反応が違っていたのかも知れません。
今の水道水では、10分以上の沸騰ではトリハロメタンは完全に除去できて、4~5分の沸騰で加熱前の水道水の10%まで減らすことができると考えていいと思います。
完全に沸騰する前のトリハロメタン濃度がピークに達する頃に火を止めたとしても、そもそもの基準値が非常に低く設定されているため、
- 日本の基準:クロロホルム- 0.06 mg/L
- WHOの基準:クロロホルム - 0.2 mg/L
加熱によって数倍に増加しても、依然WHOの基準と大きな違いがありませんので、即健康被害が出るというレベルではありません。
ですが、加熱前の水道水に含まれるフミン質と塩素の濃度によっては更に高い濃度になる可能性も否定ができませんので、できれば水道水を沸騰させて使用する場合は4分以上沸騰させるように心がけましょう。
もし、加熱によるトリハロメタンの増加が気になる場合は、加熱による除去をせずに、浄水器を通してから、加熱するようにすると安心です。浄水器を通せば、水の中のトリハロメタンを除去できるだけではなく、塩素も除去できますので、加熱でトリハロメタンが発生することはなくなります。
水を沸騰させたり、浄水器を通した場合の注意点
水を4分以上沸騰すると加熱する前に含まれていたトリハロメタンは10%まで減少し、10分間沸騰するとほぼトリハロメタンを除去することができます。
また、浄水器を使用した場合は、浄水器の性能にもよりますが、日本ガイシのC1を使用した場合であれば1%未満まで減少します。(過去記事「日本ガイシ C1ファインセラミック浄水器 CW-101」)
水を沸騰させたり、浄水器を通したりすると、水の中のトリハロメタンやトリハロメタン生成の元になる塩素を除去することができますが、その結果、水道水が持つ防錆性能を失ってしまうので、直ぐに飲まないと雑菌が繁殖したりする恐れがあります。
水出しコーヒーや麦茶を作ったり、サラダ用の野菜を洗ったりするには、水道水のまま使用した方が安全です。
水道水に入っている塩素は、継続的に摂取しても健康に被害が出ないレベルに厳しく制限・管理されていますので、その殺菌性能を上手く利用することも大切です。
用途や目的に応じて、
- 沸騰させる
- 浄水器を通す
- そのまま使用する
をうまく使い分けたいですね。